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2024年10月07日

3 北海道大学医療AIシンポジウムを開催しました

2024年8月17日(土)、北海道大学 学術交流会館で第3回 北海道大学医療AIシンポジウムを開催しました。このシンポジウムは、北海道大学大学院医学研究院のヘルスケアAIXイノベーションセンター(HAIXIC)、医療AI開発者養成プログラム(CLAP: Clinical AI Human Resource Development Program)および北海道大学病院医療AI研究開発センターが主催し、AIRS Medical社、スター・プロダクト株式会社、キヤノンメディカルシステムズ株式会社、富士フイルムメディカル株式会社、特定非営利活動法人メディカルイメージラボの協賛により実施しました。シンポジウムでは国内外のアカデミアや医療機関、民間企業から多数の参加者が集まり、現地とオンラインのハイブリッド形式で開催されました。参加者は、現地55名、Zoom経由143名(うち海外から29名)で、医療AIの最新技術とその未来について活発な議論が交わされました。

現地開催の様子

このシンポジウムは韓国のAIを用いたMRI画像処理技術を開発するAIRS Medical社と医療機器を日本へ輸入するスター・プロダクト株式会社が主催した「ランチョンセミナー」、及び「医療画像におけるAI研究」、「手術におけるAI研究」、「歩行におけるAI研究」、「医療情報におけるAI研究」、さらにキヤノンメディカルシステムズ株式会社及び富士フイルムメディカル株式会社が主催した「イブニングセミナー1」と「イブニングセミナー2」の7つのセッションを設けました。北海道大学からは5名の研究者による講演、国内大学・企業からは4名の研究者による講演、また海外大学は4名の研究者による講演と、さらに海外大学・病院から3名の研究者を座長及びディスカッサントとして招き、充実した内容のシンポジウムを開催することができました。海外の方が多数参加しているため、今回のシンポジウムはすべて英語で進行しました。

ランチョンセミナー(AIRS Medical社・スター・プロダクト株式会社主催)
ランチョンセミナーでは、北海道大学大学院医学研究院 画像診断学教室 教授 工藤 與亮が座長を担当し、韓国Seoul National University, Department of Electrical and Computer Engineering教授 Jongho Lee先生、北海道大学病院 放射線科 講師 藤間 憲幸にご講演をいただきました。Jongho Lee先生からは「My Fast MRI Challenge」と題して、MRI撮像時間短縮の歴史及び発展を紹介し、AIR Medical社の最先端AIによるMRI撮像時間短縮の製品(SwiftMR)を紹介しました。MRI撮像時間短縮による少なめなデータ量から、高画質なデータを再構成することができ、また、多数のMR ベンダーに対応できるベンダーニュートラルな製品として注目されています。藤間先生からは「Revolutionary Image Quality Improvement and its Clinical Impact Achieved by SwiftMR」と題して、SwiftMRのAIモデルの構造を紹介し、実臨床の画像を用いSwiftMRによる撮像時間短縮及び画質向上を示しました。SwiftMR技術により、低磁場でも高磁場に匹敵するような画質が得られることが示され、医療現場におけるAIの実践的な応用の可能性が議論されました。

Jongho Lee先生(左)及び藤間先生(右)のご講演

「医療画像におけるAI研究」セッション
このセッションでは、台湾Taipei Veterans General Hospital, Department of Radiology 教授Wan-Yuo Guo先生及び、 韓国Seoul National University Hospital, Department of Radiology 教授 Seung Hong Choi先生が座長を担当し、アメリカMD Anderson Cancer Center 准教授 Melissa Chen先生がディスカッサントを担当し、滋賀医科大学 放射線医学講座 教授 渡邉 嘉之先生、台湾 Taipei Medical University College of Medicine, Department of Radiology卓越教授 Cheng-Yu Chen 先生にご講演をいただきました。渡邉先生からは「Opportunistic Screening using CT」と題して、CTによる任意型検診を紹介し、任意型検診にAIを用いた脊椎圧迫骨折の自動検出及び肋間筋の自動セグメンテーションの応用例をご紹介いただきました。特に、肋間筋の体積と呼吸機能との相関も見られ、脊椎圧迫骨折の自動検出も含め、AIを利用することでよりいい健診が提供されることが期待できます。Cheng-Yu Chen先生は「AI in Cognitive Neuroimaging: from Concept to Products」と題し、認知機能低下に関連する疾患の診断や予測にAIがどのように活用されているかをご紹介いただきました。また、AIによる脳年齢の推定、萎縮なども含む脳形態の予測や認知機能の予測まで実装され、認知症予防・診断に大きく期待できます。

渡邉先生(左)及びCheng-Yu Chen先生(右)のご講演

「手術におけるAI研究」セッション
このセッションでは、北海道大学病院 脳神経外科 講師 杉山 拓 先生、講師 長内 俊也 先生が座長を担当し、北海道大学大学院保健科学研究院 医用生体理工学分野 准教授 杉森 博行と、株式会社 iMed Technologies CEO河野 健一 先生にご講演をいただきました。杉森博行からは「Surgical Instrument Detection and Motion Analysis Using Deep Learning」と題して、手術動画を対象とし、AIにおける手術器具の検出や追跡をご紹介いただきました。器具追跡により、術者の動作解析ができ、より客観的な術者の手技を評価できる可能性を示しました。河野先生からは「Real-Time AI Assistance for Neuro-Endovascular Treatment: Neuro-Vascular Assist By iMed」と題して、iMed社の製品である「Neuro-Vascular Assist」による脳血管内手術のリアルタイムの支援が紹介されました。AIを使って術中の操作の正確さが向上し、リスクが低減できるため、患者さんのQOL(クオリティ オブ ライフ)の向上が期待できます。

杉森博行(左)及び河野先生(右)のご講演

「歩行におけるAI研究」セッション
このセッションでは、北海道大学大学院医学研究院 循環病態内科学 准教授 永井 利幸 先生、東京科学大学大学院 先端人工知能医用画像診断学講座 准教授 藤岡 友之 先生が座長を担当し、北海道大学大学院医学研究院 運動器先端医学分野 特任准教授 角家 健 先生と、岩手医科大学 医学部薬理学講座 助教 中尾 元基 先生にご講演をいただきました。角家先生からは「Gait Analysis with AI for Predicting Musculoskeletal Diseases」と題して、デプスカメラで撮像された歩行様子の動画利用し、歩行追跡で特徴量を取得できるAIモデルをご紹介いただきました。このモデルでは筋骨格系障害及び歩行機能を影響する他の病気を予測できる可能性も示しました。中尾先生からは「Machine Learning-based Gait Analysis to Predict Clinical Frailty Scale in Elderly Patients with Heart Failure」と題して、心不全に罹る高齢者の歩行の様子から臨床虚弱尺度を予測するAIモデルをご紹介いただきました。特に、このAIモデルの小型化、すなわちスマートフォンの搭載の可能性も提示され、将来日常でも使える可能性も示しました。

角家先生(左)及び中尾先生(右)のご講演

「医療情報におけるAI研究」セッション
このセッションでは、北海道大学大学院保健科学研究院 健康科学分野 教授 小笠原 克彦、北海道科学大学 保健医療学部 准教授 谷川原 綾子 先生が座長を担当し、インド JSS Medical College, Department of Radiodiagnosis 教授 Vikram Patil 先生と、オーストラリアUniversity of Melbourne, Digital Health Centre for Digital Transformation of Health 講師 Mike Conway先生にご講演をいただきました。Vikram Patil先生からは「Current Status and Potential of Medical AI in India」と題して、インドのヘルスエコシステムから始め、インドの医療AIの発展及び製品の開発状況、政府の取り組み、学術機関及びスタートアップ企業の動向まで網羅的にご紹介いただきました。Mike Conway先生からは「Digital Health and Medical AI at the University of Melbourne」と題して、オーストラリアのデジタルヘルス/医療AIの産学官の概要から始め、オーストラリアの医療AIのリミテーション、ご所属しているセンターのThe Validitron(分野横断的な人員により構成されるチーム)の活動及び自然言語処理による自殺念慮識別の研究をご紹介いただきました。医療情報の分野においてもAIが重要な役割を果たしつつあることが示されました。

Vikram Patil先生(左)及びMike Conway先生(右)のご講演

イブニングセミナー1(キヤノンメディカルシステムズ株式会社主催)
キヤノンメディカルシステムズ株式会社が主催した「イブニングセミナー1」では、北海道大学大学院医学研究院 画像診断学教室 准教授 平田 健司、北海道大学大学院保健科学研究院 医用生体理工学分野 准教授 杉森 博行が座長を担当し、自治医科大学 データサイエンスセンター 講師 菊地 智博先生にご講演をいただきました。菊地先生からは「The Evolution and Future of AI in Radiology: Pioneering the Future with Abierto RSS」と題して、日本の放射線におけるAIの現状から始め、放射線におけるAI今後の発展方向、放射線自身の発展についてご紹介いただきました。その後、医療画像における多様なAIモデルを搭載している、キヤノンメディカルシステムズ株式会社の製品である「Abierto RSS」をご紹介し、実際の使用例も示しました。また、今後の放射線診断におけるAIのさらなる発展について議論されました。

菊地先生のご講演

イブニングセミナー2(富士フイルムメディカル株式会社主催)
北海道大学大学院医学研究院 画像診断学教室 准教授 平田 健司、北海道大学大学院保健科学研究院 医用生体理工学分野 准教授 杉森 博行が座長を担当し、富士フイルムメディカル株式会社 メディカルシステム事業部 ITソリューション部 伊藤 広貴 様、北海道大学病院 放射線科 講師 坂本 圭太と、同科 医員 加藤 大祐にご講演いただきました。伊藤様からは「Introduction of the latest AI technology implemented in the SYNAPSE SAI viewer」と題して、富士フイルムメディカル社のAIアプリケーションの開発状況を紹介し、製品である「SYNAPSE SAI viewer」をご紹介いただきました。坂本圭太からは「Function and Usability of the SYNAPSE SAI viewer – 1」と題して、「SYNAPSE SAI viewer」を用いて、実際の臨床CT画像にて肺結節検出、肋骨骨折検出、リンパ節臓器認識などの機能ご紹介いただきました。加藤大祐からは「Function and Usability of the SYNAPSE SAI viewer – 2」と題して、CT画像を対象として、「SYNAPSE SAI viewer」による臓器の自動セグメンテーション及び容積測定機能をご紹介いただきました。「SYNAPSE SAI viewer」の使用例から、医師の負担を軽減し、見落とし防止もでき、また各臓器容積測定による診断指標の提示もでき、診断支援には大きなメリットを受けるが期待できます。


伊藤様(左)、坂本 圭太(中)及び加藤大祐(右)のご講演

第3回 北海道大学医療AIシンポジウムは、昨年度の第2回医療AIシンポジウムによりさらに進化し、多彩なプログラムと熱心な参加者により成功裏に終えることができました。医療AI技術の進展と国際的な連携についての議論が行われ、今後の医療分野の発展への貢献が期待されます。引き続き、AI技術の進化と医療の向上に向けての取り組みを続けたいと思います。